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Over the Rainbow

某スレおよび、Pixivに投下したSSです。
なんとブログの更新は2年(ほぼ3年)ごし。
申し訳ないことでございます。

実はtwitterでつぶやき続けていたり、
ユノシュテbot作ったりといろいろやっているのですが。

あと、冬の機動六課勤務日誌14にも寄稿しておりますので
どうぞごひいきに。今回は書店委託販売とのことです。

何はともあれ、司書長は最高ですよ!



ユーノ×なのは
二人で海鳴に帰った折のこと。

君がいるところが故郷。君が家族。




 Over the Rainbow




 今日は珍しく、なのはが喫茶店翠屋のキッチンに立っている。
 少々陰鬱な雨の日の平日の午前中で、ちょうど客はいなかった。士郎さんとさんは厨房でシュークリームを仕込んでいて、姿を見せない。なのはが、どうしても午前中だけでいいから店の手伝いをやりたい、と言ったら、二人は、ぼくがいるなら、と、わけのわからないことを言って、厨房に引っ込んでしまったのだ。
 ぼくは別に喫茶店の手伝いなどほとんど経験はないのだが。二人は何か勘違いしているのか、誤解があるのだろう。いったいどんな、と、考えてみたりもするが、今はそれよりも。

 なのはがお湯を沸かす。コーヒー豆を挽く。
 熱いコーヒーを淹れる。
 この貴重な時間。彼女はいつにもまして輝いて見える。

 やはり喫茶店の娘だ、とぼくは思う。喫茶店が向いているかどうかは別として。
 結局のところ、なのはは、持ち前の正義感から戦わざるを得ない人だろうとも思うからだ。
 ただ、もっとも美しい瞬間はいまだ、と思うのだ。彼女が空を飛ぶところではなく。
 彼女が空を飛ぶのも素敵である。しかし、張りつめた弓から解き放たれた矢のような、どこか暴力的な破壊的な美しさではないだろうか(その強さに惹かれることももちろんわかっているが)。
 あるいは、時と場合による、ということか。つまり、広い果てのない空を自由に飛ぶ瞬間に彼女は美しいのである。飛行訓練や任務で飛ぶ瞬間はそうではない、とぼくは主張する。

「ユーノくん、どう?おいしい?」と、なのはがそれはそれは、楽しそうに訊ねる。ぼくは、それに真心から応える。
「もちろん、なのはの淹れたコーヒーは最高だよ」
「ふふ♪」
 なのはの笑顔を楽しみながら、ぼくは世界一おいしいコーヒーを味わう。

 なのはの最も親しい友人であるフェイトが、なのははいつも平気な顔をしている、なのはが無理をしている時がわからない、と言う。
 ぼくはなのはのコーヒーの香りを感じる、または、コーヒー豆の減り方を見るだけだ。簡単なことだ。
 仕事が忙しくなるとき、人間関係などで問題を抱える時、なのはにとって優先順位が低いそれらは放置されてしまう。
 こんなことは、フェイトに教えたこともあるのだが。わからない、と言っていた。だから、ときどき見にこい、と。分かりやすいのに、と不思議に思いつつ、ぼくはミッドチルダの高町家を訪ねる。
 擦り切れてきた心の内を察すると、ぼくはなのはに声をかける。
 遠くへ行こう、と。別に温泉旅行だけじゃあない。それはここ翠屋のある、なのはの故郷である海鳴に行く話だったりもする。ぼくの発掘旅行だったり故郷だったり、とにかく遠い世界の話をする。
 実際に旅行に行けたことは少ない。ぼくらは2人とも忙しすぎるし、きっと、まじめすぎる。それから、仕事もやりがいがある、それは、やりたいことがあるから。

 ぼくは、なのはを魔法の世界に、いや、闘争と危険の世界に連れてきたのがぼくだ、と思わないようにしている。
 きっと、なのはは自分自身で来ただろうから。
 ぼくがかつてなのはに謝った時、なのはに怒られたのをよく覚えている。そう、なのはの人生は他の誰でもない、なのはが切り開くのだから。
 それより、ぼくはなのはを旅に連れて行かなければならない、と思う。どこか、ここではないどこかへ。広い海か、緑の平原か、果てしない大空のあるどこかへ。
 それが、彼女を魔法の世界に連れ出したこのぼくの役割ではないか、と思う。つまらない、なんら理屈のあわない義務感である。

 なのはが故郷の海鳴に行く時、ぼくを連れて行きたがるのはなぜだろう、とずっと謎だった。であるアリサ、すずかは、もちろん二人とも大事な友人ではあるのだが、大親友というほどではないし。

 ただ、それはなのはにとっては、同じカテゴリーなのだろう、とぼくは考える。
 つまり、子供に帰る場所。
 海鳴で、みんなと歩いている時、なのはは笑う、あの頃と同じように。無邪気に、海が陽光にキラキラ輝くように。

なのはが、ぼくの「故郷」や「家族」に時々執着するのもわかる。同じものを期待しているのだろう。

「やっぱり、故郷、家族は特別なんだね、なのはは」
「ユーノくんも、やっぱり家族といるときが一番楽しそうに笑ってる気がするよ。いつも違う、って言うけど」
「んー、やっぱり違うよ」
「えー、そうだよ」
 なのはが隣に座って、ぼくの顔を覗き込む。それから彼女は不意に視線を逸らす。
「雨、あがったね」
「うん」

 家族のいないぼくは、故郷のないぼくは、窓の外を見るなのはの視線を追って、遠い遠い彼方の向こうを見る。
「ひょっとしたら、そうかもしれない。…でも、でも。やっぱりそうじゃないよ。
 だって、なのはが家族だし、なのはのいるところが、ぼくにとっての故郷だよ」

 彼女が驚いた顔で、頬を真っ赤にして、震えながらぼくに訊ねる。
「それ、どういう意味?」
「なのはといる時が、ぼくにとっては一番楽しいし、落ち着くんだよ」

 不意に真珠のような涙をこぼして、ぼくにしがみつき、ぼくのエプロンで涙をぬぐう彼女は
「ユーノくん、ときどき卑怯だよ」と言う。

 顔を上げた彼女に目で困惑を伝え、意味を問いかける。と、彼女は周りをさっと見回すそぶりをしてから顔をそっと近づけ、ぼくの唇に彼女のピンク色の柔らかい素敵な唇を重ね合わせて、神秘的な、理屈のない魔法でぼくにその理由を伝える。

 そして、ぼくらは目をつぶって互いを抱きしめ、溶け合う。この一瞬、ほんの一瞬だけ、世界は消えて二人だけになる。


「いらっしゃいませー!」
 なのはの明るい声が響く。ぼくはコップを磨く手をとめ、彼女に負けないように、お客さんに明るい声であいさつしようとする。
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jibriel

Author:jibriel
「魔法少女リリカルなのは」作品に登場するキャラクター、「ユーノ・スクライア」は最高のキャラクターである、と臆面もなく主張しております。
某スレ出身。最近投稿してないなあ…。

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 が、それはあなた様の趣味を否定するものでは決してありません。悪しからず。

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